仕事帰り

戦後妄想（今しか書けない）
注意事項があります、苦手な方はこのままリターンお願いします。
かなり無茶な設定ですのでご容赦下さいまし
23話時点で生存確認（……）のキャラクターで書きました。
以前ちょっとだけあげた話のリメイクです。
これもある意味家族パロ……
短い話です


①ライルは生き残りました
②外見年齢１６歳なので、ティエリアはヴァスティ親子が引き取りました
③社会勉強をかねてティエリアを学校（高校にあたる）に通わせます
④せっさん譲りのまっすぐさでティエリアは問題児になります
⑤よく学校に呼び出されます
⑥ライルは町役場の事務員です
⑦どうやらご近所さんで、やんちゃな子供の面倒を見ることが多いようです

　昼食をすませ、暖かい日差しに眠気を誘われようかという時間である。日が傾いてゆくさまを見ながら、このままいけば定時に上がれそうだと一息ついたライル・ディランディは、ふと引き取られた「子供」の事を思い出した。自分がこののんびりとした街で穏やかに暮らせるようになるとは１年前までは少しも考えられなかったので、ふとした時に再確認をしなければ夢を見ているのではないかと錯覚してしまうのだった。
　あー平和だな、あれさえなければ、と思うライルに、同僚が声を掛ける。
何事かと思えば、何と電話だ。リンダ・ヴァスティから。滅多に職場には掛けてこない彼女からの電話だが、悲しいかなライルは内容が手に取るように分かった。……当たって欲しくないけど。
　礼を言って電話を取ると、リンダの困ったような、それでいて楽しそうな、何とも表現しにくい顔がヴィジョンに浮かぶ。仕事中に呼び出してしまったことを詫びる彼女に気にしないよう伝え、用件を聞く。

「……ティエリアの学校から電話があったの」
「やっぱそうですか」
「お肉屋さんで、ちょっと騒ぎになったそうでね」
「……なんで肉屋……？」

　ごめんなさい、どうしても今手が離せないのよ、というリンダに構わないとライルは答え、通信を終える。ため息をついた後こちらを伺っていた同僚に苦笑すると、事情が分かっているのだろう、笑いながら行ってこいよと言われた。どうせ後３０分で定時だし、気にするなといわれる。
　大会社だったらこうはいかない。融通を利かせてくれる職場に感謝しつつ、荷物をまとめることにした。


　ティエリアの通う学校は車で１０分くらいの所にある。入学と卒業の時にしか訪れないだろうという予想はあっけなく覆された。今月に入って３回目。ウチの子はどうしてこうもやんちゃなんだと笑うしかない。
　入口で顔を見せただけで早速職員控え室に通される。もう常連なのだ。ライルは腹を括り、ドアを開ければ教員と向かい合って座っているティエリアがいた。

「すみません、ご迷惑をかけて」

　開口一番、ライルが詫びると教員がいいえと笑いかける。椅子を勧められて着席したライルは、何をやらかしたんだとティエリアに尋ねるが、顔を反らせたティエリアは答えない。その頬に傷を覆うガーゼが貼られているのを見てライルは顔をしかめた。もう一度、ややきつめに、何があったと聞く。
　答えないティエリアを見かねて、教員が口を開いた。

「街で少々トラブルを起こしまして。とある精肉店なのですが、そこでティエリアが店主に怪我を負わせましてね。そこで学校に連絡がありまして」
「怪我！？」
「全治２週間ということですが、相手に過失が多いことから警察には通報せずとのことでした。あ、誤解なさらないでくださいね。ティエリアから手をだしたのではないのです。まぁその、正当防衛と言いますか……」
「僕は間違ったことはしてない。あの肉屋は計測器に細工を施して重量を意図的に表示していた。僕はそれを指摘しただけだ」
「だからって『正当防衛』で全治２週間はないだろお前」
「僕の指摘に反論できない上に、力で物を言わせようとする横暴を許せと言うのか！」

　恐らく以前から悪い噂のある店だったのだろう。事実ティエリアが警察に行かず学校に引き取られていることから見ても、周囲がティエリアを突き出すつもりではない事を伺わせた。相手のやっていたことは犯罪だし、それを指摘することも悪くない。手を出してきたのはあちらが先、ティエリアに非があるとすれば何事も全力でやってしまうという点だった。
　ガンダムマイスターとしてＭＳの操縦はもちろん、いざと成ったときの格闘訓練を受けていたティエリアだが、今までの相手に手加減をされこそすれ、手加減をしたことがなかったので、必要な力加減を理解できていなかった。
　そのうえ生来の生真面目さ、ライルの兄であるニール・ディランディと親友刹那・Ｆ・セイエイの影響で、思ったことをそのままやってしまう真っ直ぐさである。不正を許せないと全力で対応したに違いなかった。
　
「喧嘩は結構、だが加減を覚えとけって何度も言ったろ……」

　ぐったりと脱力したライルは苦笑している教員に向かってもう一度頭を下げた。


　とりあえず引き取りに来て貰うだけでしたので、と言われて呆気なく会談は終わり、ライルはティエリアを促して職員控え室を出る。放課後の校内は閑散としており、サークル活動中の学生が声を張り上げてグラウンドで身体を動かしている様子が伺えた。
　駐車場に向かう間にティエリアは数名の学生に声を掛けられたが、その全てがティエリアの武勇伝を称えるものであったので、ライルはこっそりと笑った。ティエリアは憮然としている。
　相手の過失が大きいからと教員は言ったが、やはり挨拶には行かねばならないだろう。菓子折でも持って行くかと考え、不意に思い立ってティエリアにリンダとミレイナへ連絡を入れるように伝えると、それまで憮然が急に焦りの表情を浮かべた。ティエリアの外見年齢設定は10代中頃であったため、ミレイナは現在ティエリアの妹ということになっている。それ以降、妹に心配を掛けたくないという心理がティエリアの中に生まれたらしい。顔の傷を見えないようにするにはと髪をいじり始めた様子をみてライルは吹き出した。どうせ家に帰ればバレるのに、必死で模索しているティエリアの表情は、「子供」の顔だった。



　ＣＢから離れるとき、ティエリアが一人で生きていくと告げたとき、ライルはそれを受け入れられなかった。
　今まで戦いしか知らなかった子供が、一般社会になじめるとは思えなかったし、その上ティエリアの外見年齢が保護者を必要としてる年齢であるという理由でライルが身元を引き受けると宣言した時、ティエリアは驚愕の表情を浮かべた。己の出生を知っているはずのライルが、そう言ったことにまず驚いたようだった。
　兄のニールがティエリアにどのような感情を抱いていたのかは分からない。ティエリアは真摯に兄を慕っていたし、ひょっとすると、と思うことも無いわけではなかった。ただ、ニールはティエリアに年相応の生活を送らせてやりたいと願っていたに違いないとライルは信じた。兄がしてやれなかった事を、ティエリアにしてやりたい。もうＭＳはない。ティエリアはもっと「子供」として生きて良いんだと、そうしてやりたいとライルは伝えた。その声を引き取ってくれたのは、イアン・ヴァスティとその隣で微笑むリンダとミレイナだった。彼女達は微笑み、ティエリアを思ってくれて有り難うと言った。　
　そんな彼らは、ライルにも声を掛けてくれたのだ。どこまで人が良いのかと呆れたが、真摯に気遣いを見せてくれる様子が過去を疼かせる。写真も何も手元にはないが、想い出は胸の中にあった。戸惑う彼を見て、イアンが豪快に「酒飲み仲間が必要だ」と背を叩き（彼は外見に見合わぬ力の持ち主だ）ライルは笑った。
　彼らは地上に降りてとある田舎町へと引っ越し、そこで「町の電気屋さん」を商うことにした。もっとも、「町の電気屋さん」にしては幅広い分野に手を出しているようではあるが。イアンの誘いを受けたライルは、昔とった何とやらで役場に職を得てヴァスティ家のご近所さんになっている。
　一家そろって工業畑のヴァスティ家は、妻も娘も積極的に商売に参加していた。夫婦そろって使える技術屋、評判は上々で、仕事の依頼は多いらしい。リンダが学校へ行けなかったのもそのせいである。そういうわけで、学校側にヴァスティ夫婦だけではなく、ライルの名前も身元保証人に加えられている。
　ミレイナももちろん、学校へ通っている。こちらにもライルは身元保証人として登録されているが、年齢ではティエリアより年下でありながら全く問題を起こさない。これはもう、もって生まれたものとしか言いようがないんじゃないかとライルは考えているが、ティエリアにはまだ伝えていない。しかしながら、あの早熟の天才には授業内容が物足りないようでティエリアと共によく専門書を開いては意見を交している。ライルはご近所のよしみでお茶に呼ばれながら、その様子を眺めるのが好きだった。失われた光景を、見ているような気がして。
　ティエリアの外見は変わらない。恐らくそのままの姿で生きていくことになる。それでも、同じ歳の子供とふれあい、世界を知っていく事に何ら問題はないはずだ。データでしか知らなかった世界を、実体験を持って再認識していく。あと２年ほど今の学校に通って卒業するころ、ティエリアがどのように変わっているのか。ライルはそれが楽しみだった。