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甘い話を書いてみよう4

uw様のチャットに参加した際、時折幼い言葉を使うティエリア可愛いよね!という話で盛り上がりまして、そんでつい書いてしまいました。
ディランディ毛の話題もありました。

時期は1期で盛大にデレています。
かみのけのはなし→甘える兄貴って感じになりました……

+ + + + + + + + + +
 ティエリア・アーデが珍しく地上ミッションに従事し、宇宙に帰還する為に軌道エレベーター搭乗の手続きを待っている間の話である。
 ミッションパートナーでありかつ、ミッションリーダーであるロックオン・ストラトスから、積載手続きは無事終了しエージェントによる迎えは翌日になると連絡をうけてからティエリアはやる事がなくなった。自由にして良いと言われても太平洋のど真ん中に浮かんでいる無人島である。身一つで降下して来たから時間をつぶすとなれば外を散歩するか、コンテナ内でプログラムをいじるしかなく、結局午前中は自室と定めた居住スペースにて携帯端末を操作していた。
 一つ区切りがついたので飲料を確保しようと共有スペースに向かったところ、本を片手に側を転がるハロを構っているロックオンを見つけた。ミッションを終了してこの第六ポイントに移動、ロックオンから指示を受け待機してからは部屋に籠っていたので顔を会わせるのは約10時間ぶりとなる。
「よぉ、やっと出て来たか」
「ティエリア・ティエリア・ゲンキ〜?」
 カメラアイを点滅させつつハロがティエリア目がけて転がってくる。重力があるため移動手段は跳ねるか転がるかのどちらかになり、今回は後者を選んだようだった。受けとめるべきなのか少し考えて、粗末に扱うと目の前の男が色々と五月蝿いことを思い出したため受け止めることにする。
「一度部屋に入ると中々出てこない。全く困ったもんだ」
「コマッタ!コマッタ!」
 ハロはロックオンの言葉を繰り返しているだけだろうが、何故だか同時に責められているような気がしてティエリアは顔を顰めた。自由にして良いと言われたからそうしたまでで、必ず同じ行動を取る必要はないはずだと不満を表した顔を隠しもせずにハロを抱えているとロックオンは笑い、そんな顔しなさんなと言った。別に好きでしてるわけじゃない、と返すが、ふとティエリアはこの時間にここにいるロックオンこそ珍しいのだと気がついた。ロックオンはこのように時間が余った時はデッキチェアを抱えて外に赴き本を読んでいるか、またはハロを連れて散歩をしていることが多い。コンテナの中でじっとしているのは息が詰まるとよく言っていたから覚えている。
「あなたこそ、ここにいるなんて珍しいのではないですか」
「お。気づいていたのか?嬉しいね」
 先程までは外に出ていたのだが、雨が降りそうなので散歩に行くのは控えたらしい。腕の中でアメアメと繰り返すハロをロックオンに渡すと、ティエリアはもう一つ、ロックオンの変化に気がついた。
「ロックオン」
「ん?」
「……その髪は」
 ティエリアが指差したロックオンの髪は後ろで止められていた。普段は自由に流してある後ろ髪がきっちりと纏まっている。髪を纏めただけで随分と印象が違うものだと眺めていると、人を指差すのはやめなさいと言われ指を下ろした。
「雨が降りそうだって言ったろ?俺はこんなくせ毛だからな、湿気が多くなると髪が跳ねるんだよ」
「クルクル!クルクル!」
「うるさいよ!」
 囃し立てるハロを笑いながら突っついて己の髪を撫でたロックオンは、お前には縁のなさそうな話だよなと羨ましげな視線を向けてきた。ティエリアは今までにあまり己の髪質だとか、そういったものに興味を感じなかったのでロックオンが羨む理由については良くわからなかったが、ハロの言う「くるくる」には興味を持った。座っているロックオンの隣から指を伸ばし、後ろ髪を纏めているゴムを摘んで引っ張る。
「痛い!いきなり引くなって!いったたたた分かった、わかったから手を離せ!」
「イタイ!ヒドイ!」
 手を掴まれて止められたので仕方なく指を離すと、ロックオンは何も言わずにいきなり引っ張るなとぼやきながら髪を解く。そのまま手櫛で整えたのだが、予想通り広がる髪にため息をついた。
「あーあー。やっぱり跳ねてんなぁ……」
「……くるくる」
 ぽつんと呟いたティエリアの言葉に驚いて視線を投げると、興味深く観察中、といった様子である。そのまま指を伸ばしてきて、髪に触れられた。先程ハロが言った言葉を確認しているのだろう。「くるくる」だなんて、そのまま言うとは思わなかったが、妙に可愛らしい。
 しなやかで細い、白く綺麗な指に己の髪が絡まっているのを面映く感じながらロックオンは膝に抱えたハロに待機モードを命じた。大人しくなったハロを横に置いて本当だ、くるくるだと言うティエリアに腕を伸ばす。自身の髪質と全く違う手触りに夢中になっているのか、抵抗もなく正面に来た。膝を開いた間に立って髪をいじるティエリアを見上げる格好になっている訳だが、普段見下ろしているだけにまた新鮮だと思う。こうなったら思う存分遊ばせてやろうと観念した時、携帯端末にコールサインが出た。エージェントの王留美からであるのを確認し、ロックオンはスクリーンを立ち上げようと端末のパネルに指を運んだところでティエリアの指に絡まった髪に頭を引かれ現在の状況を思い出した。さすがにこの姿を見られる訳にはいかない。音声通信に切り替えることにする。
「ロックオン・ストラトスだ」
「王留美ですわ。……何かありまして?」
「あ?何でだ?」
「音声通信を選ばれたものですから」
「……まぁ、今ちょっと人様に見せれる状態じゃなくてな……」
「ーーそれは……失礼しました」
 どうやら着替えている最中だと思ったらしい王留美の要件は、ロックオンの予想通り天候が豪雨となった為にエージェントの到着が遅れ、ヴァーチェの宇宙輸送に関して日程に変更が発生したというものだった。どうやらハリケーンが近づいているらしい。髪の毛予想もある意味当るなと思いながら了解を伝え通信を終える。
「待機が伸びたようだぞ、ティエリア」
「あなたと王留美の通信は聞こえていた」
「ハリケーンが来ているようだが……コンテナから出るなよ?」
「……っ出ません!」
「どうかな。お前前科持ちだからなぁ」
 初めて地上に降りた時、ティエリアはハリケーンの体験がなかった為に、持ち合わせた好奇心から暴風吹き荒れる中を外に出ようとして大騒ぎになった事がある。過去の騒動を持ち出されて頬を染めて、それでも無愛想な返事をしながら髪をいじっているのだから可笑しくてしようがない。摘んで引いて指を離したり、指に巻き付けたりと忙しくしているかと思えば(それなりに痛かった)、次には跳ねた髪を抑えるように撫で始めた。頭を撫でられるという体験は長じてから耐えて久しいロックオンは思わず息をのむ。そんな様子には全く気づかないティエリアは撫でては跳ねる髪が面白いらしく何度も髪を撫で、指を通して梳いたりを繰り返した。その感触が心地よく、瞼を閉じてそっと息を吐く。
 スペース内にある空調の音のみが聞こえる静寂のなかで、どのくらいの時間が経ったろうか。ティエリアの指が離れてゆき、不意に感じていた温もりが消え失せたのを感じたロックオンはその手を掴んで引き止めてしまう。
「? 何か?」
「……あ、いや、……もう良いのか?」
 やめないで欲しいとは言い出せず、ティエリアの好奇心に訴えるとは我ながら情けないと思い直してそっと手を離した。伺うようにこちらを見ているティエリアに笑いかけ、感傷を断ち切らんとやや乱暴に髪を纏めてしまう。ティエリアの手は母親の感触を思い出させてしまい、天候が悪いのも相まって気分が落ちて来ているのが分かった。どうにも悪い傾向だ。あの手の心地よさはなかなか忘れられそうにないが、一度きりだからこそ貴重な体験なのだと内心で言い聞かせた。少し一人になった方が良いかもしれないとハロを抱えて立ち上がり、今度はいつも通り見下ろして声をかけると、ティエリアは形の良い顎に指を沿わせて何かを考えている。
「王留美の連絡待ちになるが、海上が落ち着くまでは……どうした?」
「あなたの髪は、ずっとそうなのですか?」
「ん?」
「……ハリケーンの間はずっとそうなのかと思って。検討してみたい……」
 また触らせてもらえるだろうか、と伺って来たティエリアを見ながら、ロックオンは自然と浮かんでくる笑みを堪えきれなかった。自分では言い出せなかった事を向こうから言ってくれた。相手の好奇心に任せて自分の本心を隠す大人のずるさを、ティエリアが気づかなければ良いと思う。嬉しくもわずかに罪悪感を感じながら、ロックオンは頷いた。
「……いいよ。好きなだけ、触っていい」
 右手でティエリアの髪をかき回すと、何をする!と憤慨して逃げ出そうとしたので、手を変えてそっと横髪を梳いた。
「さらさら」
 頬を真っ赤に染めたティエリアが硬直しているのを良い事に、何度か髪を梳いてから頭を撫で、俺は部屋に戻るけど、お前はどうする? と囁くと、頬を染めたまま俯き、プログラムがまだできてない、と返事が返って来た。
「いつでもおいで。……待ってるから」
 沈んだ気持ちを抱えて一人になろうと思ったのに、この可愛らしいお子様はあっさり吹き飛ばしてくれた。ハリケーンで閉じ込められて余計に気が滅入るかと思いきや、晴れ晴れとした心地である。
 待機の延長も悪くないとロックオンは思った。
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