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戦後妄想(「仕事帰り」の後日談?になるかなというところ)

ちょっと頭が可哀想なことになってる管理人の妄想ですごめんなさい。

あ、オリキャラがでます。というかオリキャラ視点で話が進みます。

苦手な方はご注意お願いします。

+ + + + + + + + + +
 列車は進んでいる。そのはずである。彼是二時間ほど同じ風景を見続けている気がするが、進んでいるはずである。
 長距離移動の列車、二階展望車両。旅行にも時間を掛けてという好事家が愛用するこの列車は、ここ数年続いた動乱がようやく収まりを見えた昨今徐々に客足が戻ってきているようだった。家族連れのみならず、ちらほらとバックパッカーも見られ、日差しも穏やかで絶好の旅行日和に窓に凭れて転寝している者、同行者と会話が盛り上がっている者、気難しい顔をして新聞を広げている者、それぞれである。
 クェス・マッケンジーは、周囲の反対を押し切って列車の旅を愛する好事家の一人である。いい加減に自分の年を考えて欲しいと主張する親族の意見を聞き流し、夫を亡くし戦争が始まり、どこにも行けなかった世界情勢からやっと解き放たれたのだからと、のんびりとした旅程を満喫していた。「本当に名前の通りなんだから。何かを探してないと落ち着かないのでしょ!」と呆れかえった娘が首を振りながら鞄に詰め込んだ常備薬を飲もうと視線を窓から外して手元の鞄に手を伸ばしたところ、通路を挟んだ向かい側の座席に座る人物に気が付いた。
 先程の(といっても2時間ほど前なのだが)停車駅から乗り込んだのだろう。年若い少年である。このラウンジ車両は窓に向かい合う形で座席がセットされているので、辛うじて小物が置ける、という程度の備え付けの机に紙を広げて何かを書き込んでいるようだった。隣の座席にはオレンジ色をしたバスケットボールのようなマスコットロボットが座り(?)少年の手元をのぞき込むようにしている。その少年の手にはペンが握られており、手紙を書いているのだろうと推察された。携帯端末が普及し、あらゆる物がデータ化された昨今、荷物を運ぶという用途以外で郵便は利用されなくなっている。そんな中でペンを握り手紙を書いている若者をクェスは非常に興味深く感じた。
 端末を利用してパソコンや端末に送られるメール、またはヴィジョンを利用した通信が主なコミュニケーションである彼らの世代は、ペンを握り文字を「書く」行為を実施しなくなって久しい。音声入力すら可能である時代なのだ。よって、少年の手つきは非常におぼつかないものであったし、ペンを握る力が強すぎるようにも感じた。普段利用しているのであろう端末をのぞき込みながら、おそらくはそちらに入力している文章を一文字一文字書き写している。真剣な表情の少年は慎重に作業を進めているが、やはり入りすぎた力でペン先が滑り、紙を汚してしまった。しばし呆然とし、肩を落としてため息をつく。向かいにいるマスコットロボットが恐らくは頭頂に当たるのだろう部分を開閉して囃し立てはじめた。  
「ヘタクソ! ヘタクソ!」
「……うるさい」
 憮然とした顔で書き損じた紙を取り上げ、やや甲高い音声を発するマスコットロボットを睨み付けた少年は、横に置いた鞄から新しい紙を取り出し決死の覚悟というか、親の仇かといわんばかりの表情で再びペンを取った。ハイスクールに通っていると思わしい少年が持つにしては幾分可愛らしいマスコットであるし、囃し立てたかと思えば今度は「ガンバッテ!」などと応援をしている。
 常備薬を飲み終えたクェスは、しばらくの退屈しのぎとしてガラス越しにこの奇妙な旅の道連れを観察することにした。
 整った顔。正直に言えば、少年か少女かはっきりとは判別できない。髪の色は珍しく光の加減では黒にも見えるまっすぐな濃紫で、ピンクのカーディガンに良く映えた。やや癖毛のクェスとしては羨ましい限りだ。ペンを握っている指はほっそりとしており、女である自分から見ても繊手とはこのことであろうと思う。ハイスクールの学生に違いないから、休暇を利用して実家に戻るか、親類の家に向かっている途中、というところか。
 どうやら幾つかの場所に手紙を送るらしく、失敗なく書き終えたらしい紙を満足げに見てから鞄にしまって、また別の紙を取り出している。端末を操作して情報を呼び出す表情はとても優しいものだった。
 その後クェスは自分の個室寝台に戻ったのだが、横になった間にサービス・ストップに到着したらしい。停車した列車から乗務員や乗客が駅舎に向かっている様子が見えた。ここでは補給も行うので停車時間は長いはずだが、買い物を行えるか(冷菓や果物は停車駅でしか購入できない)が分からない。とりあえず1階に下りようと階段をに向かう途中で、例の少年に遭遇した。
 両腕に抱えるようにしてあのオレンジのマスコットを持っている。これ幸いと停車時間を確認すると、「10分前に停車したばかりです。しばらく大丈夫だと思います。発車は1600だと言っていました」と丁寧な返事が返ってきた。買い物を行うには十分な時間だ。少年に続いて下車すると、強い日差しが目に染みた。この停車駅は砂漠地帯に近いせいか、日差しが強く空気が乾燥していて埃っぽい。あまり外には長居をしたくないと、早々に駅舎の売店に向かった。
 水と幾つかの果物を購入し、店員が商品を袋に入れている合間に視線をめぐらせる。乾燥した紅い土に対して、あの穏やかなピンクのカーディガンは妙に浮いて目立つため少年を見つけるのは容易かった。少年は珍しげに風景を眺めながらゆっくりと歩き周り、何かを拾っては観察し、抱えているオレンジの球体に見せている。精密機械にはあまり適さない環境なので抱えているのだろうが、風に乗って「アカイ スナ」とか、「オサンポ」と言う甲高い声が聞こえ、無個性な合成音のはずなのに何故か愛嬌のある声だと感じた。
「シガイセン ト ニッコウ ノ ボウギョヒツヨウ ヲ カクニン! ボウシ カブッテ!」
「列車の中だ。買い物を済ませたらすぐに戻るから」
「ダメ! オコラレル! トッテキマス!」
 そう言ったオレンジの球体は、少年の手から飛び出し列車まで跳ねていった。ただのマスコットかと思いきや、この環境にも耐えうるかなりの高性能を誇っているらしい。教育プログラムでも組み込んであるのか、この年の少年に必要かどうかは分からないが、成人を迎えていない子供の一人旅にはちょうどいいのかもしれない。今度、孫に買ってやろうかと見送ったクェスは、困惑の表情を浮かべている少年に思わず声を掛けた。
「元気なロボットね」
「ハロと言います。僕の相棒なんです。でも口うるさくて、前はあんなではなかったのに。誰に似たんだろう?」
「相棒?」
「随分長いこと一緒にいるんです」
 少年の荷物から帽子を取り出したらしく、器用に持ちながら列車から飛び出てくるのを他の乗客が慌てて避けている。その様子がユニークで、クェスは声を出して笑った。 
 1時間の停車時間を過ぎ、車掌が乗車を促している。少年はハロが持ってきた帽子をかぶり、外の探索を続けていたようで、慌ててハロを抱えたまま乗車してきた。手には買い求めた水を持っている。
 先ほどまで気がつかなかったが、少年の個室寝台はクェスの向かい側であったらしい。あちらも驚いたようで、そのまま会釈を返してきた。何かの縁だろうからとクェスが名乗るとティエリアだと答え、綺麗な名だと伝えると、面映そうに微笑んで礼を言った。そのまま軽く会話を交わす。
「終点にご家族がいらっしゃるの?」
「いえ、世界を見てみたいので、特別に許可をもらって旅をしています」
「長いお休みなんて、学生の時にしかもらえないのだから。色々なものをたくさん見なさいね」
「ありがとう」
 個室寝台の座席に腰掛けて、これまでどこへ行ったかなど通路越しの会話をしばらく続けたが、夕食までの時間をもう一眠りすることにして断ってからそっとドアを閉めた。おやすみなさい、という声は柔らかく、とても心地よく感じ目を閉じた。

 完全に日が落ちてしまえば車窓からの風景は殆ど見えなくなる。それでもラウンジ車両には、星の輝くさまを見たいのか、それなりの人間が集まっていた。夕食を終えたクェスは、それでも何か見えるのではないかと持ち前の探究心からしばらく居座ったのだが、結局は陽気な酒好きたちが歌を歌い始めた時点で個室に戻ることにした。ティエリアはまだ起きているようだ。ドアは開けていたので覗いてみると、ペンを握っていたので手紙の続きを書いているらしい。ラウンジ車にはしばらく行かないほうがいいと伝えて個室に入った。
 持ち込んだ単行本(クェスは紙媒体の大ファンだ)をめくりながら、時折聞こえるハロのシッパイ!(ティエリアはまた間違ったな)という音声や、うるさい! と言い返すティエリアの声にそっと笑う。穏やかな夜は、しかし急に打ち破られた。
「マタシッパイ! 10カイメ! ヘタ、アー!」
 ごとん、と物が落ちる音がして、オレンジ色の球体が足元まで転がってくる。とうとう癇癪を起こしてしまったティエリアが座席を軽く蹴ったのだが、ハロはそのまま落ちてしまったらしい。
「ヒドスギル! ヒドスギル!!」 
 転がってきたハロを拾い上げたクェスは、懸命に不満を訴えている様子に苦笑しながらティエリアに手渡した。
 恥ずかしそうに顔を傾ける彼に、あまり乱暴をしないように笑いかけ、机の上の紙を見る。なるほど、失敗しただけはある。この世代の少年特有の悪筆で、ティエリアの外見や立ち振る舞いからかけ離れた字に意外性を感じた。内容は住所で、これまた多岐にわたっている。中東、ロシア、ヨーロッパ、アジア。備え付けの机の上に、世界が広がっていた。住所を書き込んだら紙の側にはお土産のつもりなのか、小瓶に詰めた砂や赤茶の石などが並んでいる。手に取ったティエリアは一つ一つ確認しながら中にいれ、封をする。その作業を繰り返した後、最後の紙を取り出して住所を書き始めたが、やはり手つきが落ち着かない。見かねたクェスはおせっかいながらも声を掛けた。
「書いてあげましょうか?」
「ありがとう。でもこれは僕が書かないといけないんです。そういう約束だから」
 ティエリアは微笑んで手元の文字を見る。
「僕の旅を許してくれる代りに、ハロを連れて行くことと、必ず自筆で書いた手紙を送ることが皆の条件だったんです」
 だから、ちゃんと自分で書きます。
 ハロと一緒に旅を続けていますと、皆に知らせて、安心させる為に。
 そう言うティエリアの表情は、優しく年齢を感じさせないもので、クェスを戸惑わせた。幼い子供だと思っていたのだが、何か違うのかもしれない。大事な手紙だったのだと悟ったクェスは己の不明を侘び、そしてお詫びにペンの持ち方を指導することにした。やはり、力の入れすぎなのだ。
 そうして終着駅に着くまでの間、クェスはティエリアのために幾つかの書き取りの課題を出し、正しい持ち方を学んだティエリアは熱心にくり返し書く練習をした。飲み込みは良い生徒だった。

 終着駅についた列車は、多くの人でごった返している。二階の個室寝台から荷物を下ろすのには一苦労で、長旅の割りに鞄一つという軽装なティエリアが手伝って何とかホームに降り立ったクェスは、ここ数日のお礼を兼ねて迎えに来ているであろう娘夫婦と共に食事に誘うつもりだった。
 声を掛けようと振り返えったが、ティエリアの姿は既に視界から消えており、慌てたクェスはピンクのカーディガンを探したが、多くの色彩の中から見つけ出すのは不可能だった。予想外のあっけない別れに呆然としてその場に立ち竦んだが、改札に娘が待っている。心配するだろうからと荷物に手を伸ばすと、ティエリアが運んでくれたトランクに紙が挟まっている。慌てて開けばそこには見慣れた文字が並んでおり、旅行の思い出になったことや書き取りの礼が丁寧な言葉で綴られ、最後に健康を気遣う言葉で締めくくられていた。
 不思議な少年だった。
 幼い外見であるのに、その中身はそれ以上に重ねてきたものを抱えているような子供だった。ほんの数日、時間を重ねただけだったが、その間ティエリアは停車するたびに下車しては何かを拾い、風景に目を走らせては楽しげにしていた。
 目に映るもの全てに興味を示すあの紅い瞳は、今日はどこを見て、どこを歩いていくのだろう。ティエリアの休暇は長いのかもしれない。どこまでも続く限り、大きな空のした、オレンジの相棒を抱えて、時に言い争いながら、楽しげに。

「さよなら、ティエリア。良い旅を」
 

 その旅を振り返るときに、文字の書き方を教えた老女のことを、少しでも思い出してくれると良いのだけれど。





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