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時間軸は二期
二期ロックオンメインで話が進みますが、一期ロックオンとティエリアの話にする……予定でした。

愛と記憶と時間の関係

ライルさんについて考えようと思って書いていました。
途中で申し訳ないんですが、もう少し考えます。

かなり本編とはずれてしまっていると思いますので、ご注意下さい。


+ + + + + + + + + +
『愛は時の威力を破り、未来と過去を永遠に結び合わせる』

               ヴィルヘルム・ミューラー 「詩集」



**



 ライル・ディランディが、世界の敵、今もなお人々の記憶に残るガンダム、その大きい力を所持していた「ソレスタルビーイング」にスカウトされるという青天の霹靂とも言える事態が発生したのは、その組織に兄であるニール・ディランディが所属していたというこれまた予想外の事情によるものであった。
 初めて接触して来た男は中東出身者であろうという風貌であったから、何故自分が呼び出されたのか言われるまでは正直全く分からなかった。彼は旧AEU圏にあるアイルランドの出身で、この年まで生きて来て中東出身の人物と懇意にする機会はそうそう無かった。勿論、勤め先の取引相手に中東出身者がいたかもしれないが、こうやってタイも付けない状態で呼びだされるほどの親交を結んだ相手はいない。少なくともこの国(アイルランド)ではそうだ。

 その男は、兄の「その後」を伝えに来たのだ。



「あの事件」があってから殆ど兄と接する機会はなくなった。何故か自分宛に金だけが送られ、その金で彼は学び、学歴を得て企業に就職した。理不尽な理由と力によって愛する家族を只一人残して失った彼は、唯一残った兄の望みが、己が所謂ホワイトカラーになって相応しい相手と結ばれ、あの懐かしい家庭を再び持ち得る事であったのだろうと考えた。
 幸せになるという定義が人それぞれであるように、兄にとっての幸せはそうであったろうが、ライル自身にとっては兄の存在さえ無事であればそれで良かった。送られてくる多額の金の出所はあまり考えないようにしていたし、送金されている間は無事であると確認できた。
 与えられて生きて来た。
 ライルはそう考えていた。兄から与えられ、望まれた道を進んで来た。兄が望んだ道を進む事こそが己の義務だとさえ思った。家族を奪われた想いを忘れることはできないが、兄はそれを乗り越えて生きていけという想いを己に託したのだろう。ただ、この道を進むのはある意味戦いでもあった。
 夢に見ては飛び起きる。ふとした拍子に思い起こされる光景は、ライルを常に蝕んだ。振り上げても下ろす場所のない拳を硬く握り、歯を食いしばって耐えた。やり場の無い怒り、打ち明ける事の出来ない思い。積み重なって憎しみと言える感情、それを堪えて、勉学を進め地位を得たのだ。憎しみに己は打ち勝った、これで兄に誇れるのだと信じた。
 スーツに身を包み、硬い鞄を下げて会社に通う。どの部署に配属されても上手くやって行ける自信はあった。事実、彼は優秀な社員として順調に仕事をこなしていた。そんな時だった。ソレスタルビーイングという組織が現れたのは。
 当時最新鋭であったAEUのモビルスーツを赤子の手を捻るかのように蹂躙し、駆逐し、圧倒的な強さで席巻したCBは、宣言通り戦争行為を行う組織や団体に対して武力介入を行っていた。タリビア紛争では、彼らの意思は大国小国に関わらず平等に下されるのだと知らしめた。何か、違うのかもしれない。そう思った。しかし、ある日突然に民間人に攻撃をする。
 ビジョンの映像を見たライルは、克服したはずの過去を目の当たりにして時間の感覚を失った。燃え盛る炎と瓦礫の中で15歳の自分が叫んでいる。あの時は隣に兄がいてくれた。だが、今、ライルは一人だった。支え合う腕はない。ソレスタルビーイング。ご大層な思想を掲げても、結局はテロリストなのだ。彼の家族の命を奪い、そして兄を己から引き離した。
 
 ソレスタルビーイングを討つ為に3つに分たれていた世界が1つにまとまり、地球連邦という統一組織が完成したのは「連邦軍」が組織された後であった。それぞれの国は地球連邦に加盟するというこれまで存在した国連を踏襲した形となっていたが、事務局長の代わりに大統領が置かれた。つまりは新しい国家ということになる。ライルはその世界の動きを仕事としては重視していたが、個人的には特に大きな関心を抱いていなかった。国の単位としては大きな問題だったかもしれないが、個人という単位では役所の取り扱いはどうなるのかな、という程度の認識だったのだ。テロリストとの戦いを掲げ組織された連邦軍は、その役割を果たすべく日々活動しているようであったし、報道官が伝える公式声明は正義の戦いを強調した。
 繰り返される日々の中で、ライルはふと気がつく。送金が止まっている。
 就職してから当面の生活は己自身で賄えるようになってきたから、兄から送金される金には手をつけていなかったし、ここ数ヶ月は大きなプロジェクトを抱えていて会社と自室を往復するのみの生活を続けていたせいで、口座の確認を怠っていた。
 学生の時分は兄の存在を確認するために毎月必ず確認していたものだが、職を得てからは社会に対する責任という新たに背負ったものに追われていた。兄を忘れていたわけではない、ただ、思い起こす機会が確実に減っていたのは確かだ。兄の消息を積極的に追求しては来なかったのを悔やむ。己からは連絡がつけられないのだ。
 そして、車が一台、手元にやってきた。
 何の連絡もない、持ち主が明らかでない怪しい贈り物だ。依頼された業者が伝えてきた個人名は、半世紀前に死亡した人物の名だった。ただ、新聞の空白の部分を破いた小さな切れ端がダッシュボードに挟まっており、一言だけ「ライルに」と書かれていた。
 ライルはそれで全てを了解し、受け取りにサインをした。

 兄は、死んだのだろう。
 1人になってしまった。
 微かに繋がっていた最後の糸が、途切れたのだ。

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