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プランツネタと言ってはいけない気がする。

うっかり思いついた
スナイパーと少女人形の話
パロディですごめんなさい!
ついでにニョタでもあったりします……

+ + + + + + + + + +
 雨が地面を叩き付ける音と、時折通り過ぎる車が水を跳ねる音、それ以外に男の周囲に音は無かった。息をひそめ、じっと待つ。決定的な瞬間はたったの一回、それを逃すことはできないし、プロを名乗る以上は逃すことはない、のだ。
 スコープ越しには既に標的を捉えている。あとはこの指の力を込めるだけ。確実にしとめる瞬間を待って男は息をひそめている。どのくらいの時間が経ったか、男はもちろん把握している。時間感覚をなくす訳にはいかない。あまりに長引くようであれば、今日は諦める。
 そんなとき。
 標的が窓のそばに寄って来た、のがわかる、そしてその視線を表の通りにむける、瞬間。男は指に力を込めた。
 確認はしない。確実にしとめたのが分かるからだ。男が今行わなければならないのは、すぐにこの場を去る事、彼の痕跡を残さない事。獲物をしまい、薬莢をひろう。ライフルは後でバラして川か海に投げ込む。一度使った銃なぞ、簡単に足がつくから同じものを何度も使うべきではない。
 
 狙撃に使ったポイントから逃走する経路は全て頭に叩き込んである。時計を確認していくつかあるルートの一つを選んだ男は、迷いもなく階段を下り通路へ身を滑らせていく。雨に打たれて濡れた躯を整えるために選んだ場所は倉庫といってよい物置だった。狙撃ポイントを調査中に偶然見つけたのだが、人の出入りがここ数ヶ月頻繁ではない様子がちょうど良かった。全く人が入らないというのも逆に目立ってしまう為に使えない。施錠も単純なもので簡単に開けられる。中に入った後に周囲の確認を行い、誰もいないと判断してからあらかじめ用意していた着替えやタオルなどを取り出して身を整える。先程まで纏っていた黒のタートルネックを脱いで躯を拭い、ワイシャツを羽織り、上衣を纏った。バラしたライフルと共に脱いだ服などを細かく畳んで鞄に入れたとき、男の視界に何かが入った。
 ——何かいる。
 ここに入ったときに人の気配は感じなかったのに、確かに何かがいる。昨日、最後の下見に訪れた時も感じなかった気配がある。
 ——見られた。
「……誰だ」
 誰何の声に応えるものはない。恐怖に声がすくんでいるのかと思えば、そういう雰囲気は感じない。男はゆっくりと足を勧めてその気配を辿る。なおおかしい事に、逃げ出そうという様子もない、どうやら壁に設置してある棚のあたりにいるようだ。
 いつ襲われても対応できるよう、神経を研ぎすませる。男は暗闇でも変わらず視界を保つ事が出来るために明かりは必要ない。視線を向ける。
「何だ?」
 そこにいたのは、些か時代錯誤ともいえる服を纏った幼い少女だった。どうにもこの場所に相応しい衣装ではない。棚に腰掛けて目を閉じている。眠っているようだ。この眠っている少女の気配を感じたのかといぶかしんだ男が、この面妖な少女の顔を見るためもう一歩近づいた瞬間、瞳が開いた。
「……っ」 
 視線に射抜かれるなどと、敵と対峙しているわけでもないのにと動揺するが、目を離せない。美しいとしか表現のしようがない整った顔。濃紫の髪、紅玉の瞳。その瞳が自分を捉えている。吸い込まれそうな感覚から逃れようと目をそらすも、すぐに視線を戻してしまう。見知らぬ男が目の前にいるというのに、悲鳴すらあげずいる。
 一言も話さないその少女が、巷でいわれるドールというものであるようだとようやく男は理解した。だがなぜ、ここにいるのか。昨日はいなかった。という事は、誰かがこの場所に入ったのだ。
 男の全身に緊張が走る。この場所は危険だ。早々に立ち去らねばならない。一度棚から離れて荷物を手にし、入り口から周囲の様子を伺う。深夜のこの界隈は人は少ないが必ず安全というわけではない。死んだ標的を発見された様子はまだないが、この場で一晩過ごす事はできなくなった。
 この倉庫から立ち去るとして、その間にやらなければならない事がある。
 男はドールに向かって視線を投げた。既に起き上がったドールは、相変わらず一言もなく男を見つめている。
 ——ドールに対して証明能力が認められているとは聞いた事がない。口がきけないのだから当然だ。だが、身体を動かす事ができる。頷いて肯定することや否定すること。指で指し示すこともできる。
 男の判断は一つだった。このドールを、壊す。そうすれば己の安全を保てる。まだ引退するつもりも予定もないのだ。
 可哀想だが、とふと考えた自分がおかしくて唇を歪めると、ドールは軽く首を傾けた。肩を滑る艶やかな髪がさらさらと音をたてているように感じる。どうにも良くない傾向だ、さっさと片付けてこの場を去らなければ。
 ライフルはバラしてあるが、銃を左に吊ってある。もしもの為にサイレンサーをつけておいて正解だったと思いながら利き手を差し込み、グリップを掴んで銃を抜く。
「すまねぇな、お別れだ」
 この美しい顔が壊れるのは残念だ。可哀想に、俺に会ったばかりに。持ち主に出会う前にここで壊れる。せめて一発で楽にと銃口を向けるとドールが手を伸ばして来た。予想外な行動に男は呆気に捕られ、そして引き金にかけた指を離してしまう。一体なんだと目を見張った。
 ドールは己に突きつけられているモノを理解しているのかと思う程に、無造作に手を伸ばして銃身に触れた。小さな手が躊躇いもなく銃身を撫でるのを視界に納めた瞬間、背筋が震えた。
「よせ、」
 そういう言葉が口をついたが声は情けない程に小さく、聞こえないのかそのままドールは手を滑らせ銃を握る男の手に触れる。これはドールだと分かっているのに、利き手を捕られたのに、男はその手を拒めなかった。柔らかい感触、ほんのりと暖かい体温、ついには両手で銃と己の手を包む小さな手。手に触れられたのは何年ぶりか、身体が震えて、振り払えない。
 ドールがそっと顔を上げる。その紅い目を捉えたときに男の全身にもう一度震えが走った。この感覚には覚えがある。——欲だ。
 男は空いた左腕で「少女」を引き寄せ抱き上げた。ふわりと舞う髪に顔を伏せる。甘い香りが鼻孔に満ち、堪らず白い項に唇を寄せ吸い付くと、拒むかと思いきや小さく震えた少女の腕が伸びて男の頭を抱いた。男は柔らかい躯に顔を埋めて目を閉じる。癖のある己の髪を撫でている小さな手を感じながら、男は一つを諦めた。そして一つを決めた。
 しばらくして、男は安全装置を掛け直した銃を懐にしまい、少女を抱いたまま立ち上がる。鞄を片手に入り口へ向かいながら不思議そうに己を見る少女に向かって一言、嫌かと尋ねた。声を持たない少女は、その代わりに男の首に腕を回して顔を埋める。
 扉を開けるとまだ雨は降り続いていた。鍵をかけ直し、男は抱いた身体を確かめてから足を踏み出した。
 
 それが2人の出会いだった。


 
 
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