先日上げたものですが、完成しましたので再アップ。
イカれたPCだましだまし書いたので、えらい時間掛かりました(笑)
おそらく二期開始前の最後の更新です。
いよいよというわけで緊張しますね!
例のごとく捏造している部分があるのでご注意くださいませ。
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音楽を嗜むことを知らなかったティエリア・アーデにそれを教えたのは、やはりロックオン・ストラトスだった。やはりというのは、こういった情緒的な行動に関してそれなりの知識を持ち指導できるマイスターが彼一人であったこともあるが、教えられる側が不承不承ながらも言うことを聞く人物であったいう側面も大きい。彼が弟分として認識している刹那・F・セイエイにもその教育を施そうとしたが、本を渡して感想を聞けば「やつはガンダムになれない」だの「この世に神はいない」だのという1行コメントしか返してこないし(「やつ」が誰なのかも言わないし)、音楽を聴かせてみれば5分で寝ているものだから、人には向き不向きがあるのだなと認識して終わった。もう一人、弟分にしてはやや育ちすぎているが良き同士であるアレルヤ・ハプティズムにも同様に試みたところ、やや感情移入過ぎる面が見られたものの優秀な生徒であったためにあっさり教えることが無くなってしまった。もとより感性が優しい人物であったのも大きいだろう。第二人格のハレルヤがアレルヤを差し置いて暴れ出しさえしなければ概ね問題なかった。
そもそも、ティエリアへのメンタルケアとして始めたものだった。ベクトルが違うだけで大体の行動パターンが似ている刹那とティエリアだったが、言われれば黙々と遂行する刹那とは違いティエリアは第一がまずミッションであり、それ以外を排除する傾向が多々見られた。そのため操舵士でありレクリエーションを担当しているリヒテンダール・ツェーリより何とかしてくれと依頼を受けたのがロックオンである。レクリエーションは医療部の管轄だが、主任のモレノ医師の推薦で指名されたらしい。戦艦(トレミーは戦艦ではないが)など長期にわたる閉鎖空間でのレクリエーション効果が、搭乗員のメンタル面に及ぼす影響に関しては数世紀前から論じられており、その担当が医療部であるのも変わらないが実際に指名されたロックオンは医師の姿を思い起こしてあまりのギャップに頭を抱えた。どう見たってレクリエーションがどうこう言うタイプに見えない。ロックオンが指名された理由は彼の人となりとそれまでの経験からによるものであったが、ひょっとするとマイスターの間で最も年長であることが大きな理由ではなかろうかと邪推してしまう。見てくれがどうであれやはり医師なのだなと思い直したが、与えられた任務の困難さを想像して憂鬱になった。なにせ、ティエリア・アーデである。恐らくは最も手強い相手であった。
依頼を承諾したとはいえ専門的に学問を修めたわけではない。レクリエーションが云々という話ではなく、上手く気分転換させれば良いのだろうという考えに至ったが、相手が相手なだけに気軽にお茶でもなどと言うわけにいかず、散々悩んで出た結論が巷では情操教育とかいうものに近い読書やら音楽鑑賞やらというわけだった。ミッション以外では他者との交流を避け続けている相手にいきなりカードゲームは難易度が高すぎる。まずは1人でもリラックスできる技を薦めてみよう、さてその算段はと考えをめぐらせるロックオン・ストラトスは慎重さと豪胆さを兼ね備えたマイスターであった。刹那とアレルヤへの推薦は実践を想定した模擬訓練であり、その結果を踏まえてと計画を立てたのだが、あまり参考にはならないだろう。何せ相手はティエリア・アーデであり、刹那ほど端的に表現することもなくアレルヤほど優しい感性を披露してくれるとは思えなかった。
一体どういった企みですかと真顔で尋ねられてしまうと何と答えればいいのか迷ってしまう。あなたと一緒に音楽を聴きたいんだけど……これじゃあ口説き文句だ。まさか出だしから座礁するとは思わなかったが、よくよく考えれば目的を上げ原理を説明し、方法を述べてから結論を言わないと納得してくれない人物なので、手順を誤ったのはこちらのほうである。ロックオンは滅多に使わないヴェーダのライブラリデータを利用して、説得に足る資料を集めることにした。なぜ音楽聞かせるのにここまで複雑化するのかさっぱり理解できないというリヒティ(資料集めを手伝わせた)に同意しつつ、データを探る。閉鎖空間におけるメンタルケアの必要性とその方法、作業効率の問題に触れれば説得効果はさらに上がるだろう。さらに音楽のリラクゼーション効果について。学者でもない医者でもない自分が分かる範囲は限られているが、それでも何とか資料を揃えてディスカッションに赴き、これこれこういう理由で、気分転換もかねて音楽を聴いてみませんかと提案してみると興味深げに納得してくれた。手順を踏んで説明すれば頭ごなしに拒否することはしないのだ。当然と思って省略しがちな内容がティエリアにとっては何一つ漏らしてはならない大切な情報であり、判断の材料となる。経験を積めばわかってくる微妙な呼吸というものが、まだティエリアの中には育っていないのだろう。小さな子供と同じでまだまだ対人関係のスキルは発展途上と言ったところだ。年齢については刹那と殆ど変わらないだろうと思っていたが、案外刹那より幼いのかもしれないと感じたのはこの時だった。
音楽を聞かせるということについては承諾を得たものの、何を聞かせるかという新たな問題が生じた。勝手なイメージとしてはクラシックだが、そちら方面は著名な作曲家の名前は知っているという程度。曲もヴィジョンで流れるものくらいしか知らないし(刹那に聞かせたのもそのあたりだし)、ヘタに手を出せばボロを出すのはこちらで、逆にご教授いただく破目に合うのが目に見えるようだ。とは言えこちらが勝手に音楽を決めるのもおかしな話であり、これはティエリアのリラクゼーションであることを思い出したロックオンは、結果大まかに知られている音楽を聞かせて好みを見つけさせようという作戦を取る事にした。そりゃまた難儀な方法を選びましたねと半ば呆れ、半ば諦めの入った顔で言うリヒティ(音楽ファイルを探すのを手伝わせた)に同意しつつ、「おためし音楽」と名付けたデータステックにファイルを放り込んでいった。
「おためし音楽」データステックを手にしてためつすがめつしているティエリアに、そんなことしても何も聞こえないぞと苦笑しながら端末に突っ込んで再生を開始する。そしてものの数分で後悔した。これは何ですか、どういう意味ですかという質問が矢継ぎ早に繰り出され、音楽の学者でもないロックオンは四苦八苦することになったのだった。ついにはドレミの起源にまで話題が及びそうになり、とうとう匙を投げたロックオンは唯一自分が知識を披露できるジャンル・・・・・・故郷の歌を再生することにした。
ほろほろと流れる曲と歌に耳を傾けつつ、懐かしさから同じ旋律を口ずさんでいたロックオンは、不思議そうに己を見ているティエリアに気がつく。問いかけると、あなたが好きな音楽のなのですねと至極真面目な顔で言われ、思わず赤面してしまった。幼い頃に主に母親が歌っていて、それを聞きながら覚えた曲だ。歌が好きな彼女の居場所では必ず優しい歌が聞こえた。追憶の中にいる家族を思い、そっと息をついたロックオンは、己を見つめるティエリアに微笑みこの歌の意味を聞かせてやるために口を開く。ただの歌ではない、思いや情景を話して聞かせた。かつて己がそうされたように。
それから、ティエリア・アーデがデータステックをもってロックオン・ストラトスに何らかの問いかけをしている光景がトレミー内でよく見られるようになった。その度にロックオンは笑いながら答えている。今のところ相手は限定されているものの、あのティエリアがミッション以外で積極的にコミュニケーションをとるようになったのである。リヒテンダール・ツェーリは己の采配に満足し、医務長のモレノ医師に報告した。ロックオンはまたしてもハードなミッションをクリアしたとトレミークルーの評価も上がったのだった。
地上任務を終えてトレミーに戻ってきたロックオンは自室に戻ってから肩に背負った鞄のなかから一つ包みを取りだした。店では簡単に包装してくれたのだが、さっさと開封してしまう。彼の広げた掌の中に納まる程度の大きさの箱だが、ちょっとした仕掛けがしてある。彼は地上ミッションのたびに余裕があればクルーにお土産を持ち帰ってきたのだが、とうとう今回ティエリアの番になったのだ。ちなみに刹那には多機能ナイフを、アレルヤにはリクエストもあって写真集を渡した。
普段の彼ならば贈り物を事前に開封するなどと礼を失した行為はやらないのだが、これは本人に確認させるためにも裸のまま渡したほうがいいと判断した。目当ての人物は恐らく部屋に篭っているだろうから、手渡すのには丁度いい。
自室にいるものと思っていたのに何と展望室にいたティエリアは、訪ねてきたロックオンを訝しがりながらも締め出しはしなかったが、土産だと渡された箱を小首を傾げつつ眺めた。まず観察を行ってからやっと手を出すのだが、そこまで待てなかったロックオンが蓋の部分を開くと澄んだ音色が流れ出してきたのに驚いて手を離してしまった。放り出したものの無重力状態の艦内では音色を響かせながら漂うばかりである。警戒状態にあっても潜水艦などとは違い無音航行を実施せずともよいことを宇宙の数少ない長所として認識しているロックオンは、オルゴールを買ってきたのだった。無重力空間でオルゴールを聴くのも乙なものだとロックオンは思い、漂うオルゴールを手に取ってティエリアにもう一度渡す。オルゴールの曲目はかつて教え、彼がよく口ずさんでいる歌だった。オルゴールというものを知らなかったティエリアは、音楽を確認したのちにその構造に興味を示して再び観察を始める。音楽ならデータステックがあるとティエリアは言ったが、ロックオンは音楽を知ったこの子供に同じ曲でも演奏する楽器で音は変わるし、演奏する人間や解釈や思いで音は変わること、人の数だけ音楽は違うのだと教えた。じっと己を見ながら話を聞くティエリアに、出来ればこの言葉に隠された真意にも気がついて欲しいと思いながら。
ころころと流れる音を聞きながら、ティエリアはこの曲はある場所を歌っていることを思い出したらしい。その場所の映像はないのかと言い出したので、今度連れて行ってやるから自分で確認してみると良いと口にしたときに曲が止まった。一通りネジが回れば曲は止まってしまうので、ネジの巻き方を見せてから繰り返し聞けるのを確認させる。本体をしまうためにやや厚みを持たせてある箱は、内部に小物を入れることができるスペースがあった。ロックオンが茶化してそこには秘密の宝物を入れておく場所だというと、そんなものはないと返された。機嫌を損ねてはよろしくないので早々に退散することにして暇を告げ、出入り口からそっと伺うと掌のオルゴールを眺めている様子が見えた。気に入ってくれたのだろう。
ティエリアがそのオルゴールをどう扱っていたのかは分からないが、時折ころころと音色が聞こえて来る時があった。ロックオンがティエリアにオルゴール渡したこと、そしてそのオルゴールをティエリアが存外に気に入っていることを知る人物は、時折メンテナンスでネジに油を差してくれるイアン・ヴァスティくらいだったろうが(酒飲み友達のモレノ医師も知っていたかもしれない)、彼はティエリアの小さな秘密を口外しなかったので、巡りめぐってトレミーの怪談として聞かされたロックオンは腹を抱えて笑う破目になった。
出撃前、最後のミーティングを終えたマイスター達は待機するために各コンテナへ向かう。既にヴァーチェのコンテナへ移動したと思われたティエリアだが、ロックオンの待機ルームに現れ驚いた。戦闘配置中だぞと声を掛けると、戸惑いながらも傷の様子を訪ねてきたので大丈夫だと頷く。納得した様子ではなかったが、キッと視線をロックオンに向けてあのオルゴールにはあなたに貰ったデータステックを入れますと言われ仰天した。あまりに突然なのと、内容が内容なので理由を問うと、あの日、オルゴールを渡した日、曲の言うその場所へ連れて行ってやると約束したことを言われロックオンはそうかと微笑んだ。ヴァーチェに持ち込んでいるのだろうかと疑問に思ったが、約束しましたよと言い残してティエリアは退出していく。ドアのスライドが閉じられた。
そういうわけで、そのオルゴールの中には彼の人がくれた小型のデータステックが収まっている。
そもそも、ティエリアへのメンタルケアとして始めたものだった。ベクトルが違うだけで大体の行動パターンが似ている刹那とティエリアだったが、言われれば黙々と遂行する刹那とは違いティエリアは第一がまずミッションであり、それ以外を排除する傾向が多々見られた。そのため操舵士でありレクリエーションを担当しているリヒテンダール・ツェーリより何とかしてくれと依頼を受けたのがロックオンである。レクリエーションは医療部の管轄だが、主任のモレノ医師の推薦で指名されたらしい。戦艦(トレミーは戦艦ではないが)など長期にわたる閉鎖空間でのレクリエーション効果が、搭乗員のメンタル面に及ぼす影響に関しては数世紀前から論じられており、その担当が医療部であるのも変わらないが実際に指名されたロックオンは医師の姿を思い起こしてあまりのギャップに頭を抱えた。どう見たってレクリエーションがどうこう言うタイプに見えない。ロックオンが指名された理由は彼の人となりとそれまでの経験からによるものであったが、ひょっとするとマイスターの間で最も年長であることが大きな理由ではなかろうかと邪推してしまう。見てくれがどうであれやはり医師なのだなと思い直したが、与えられた任務の困難さを想像して憂鬱になった。なにせ、ティエリア・アーデである。恐らくは最も手強い相手であった。
依頼を承諾したとはいえ専門的に学問を修めたわけではない。レクリエーションが云々という話ではなく、上手く気分転換させれば良いのだろうという考えに至ったが、相手が相手なだけに気軽にお茶でもなどと言うわけにいかず、散々悩んで出た結論が巷では情操教育とかいうものに近い読書やら音楽鑑賞やらというわけだった。ミッション以外では他者との交流を避け続けている相手にいきなりカードゲームは難易度が高すぎる。まずは1人でもリラックスできる技を薦めてみよう、さてその算段はと考えをめぐらせるロックオン・ストラトスは慎重さと豪胆さを兼ね備えたマイスターであった。刹那とアレルヤへの推薦は実践を想定した模擬訓練であり、その結果を踏まえてと計画を立てたのだが、あまり参考にはならないだろう。何せ相手はティエリア・アーデであり、刹那ほど端的に表現することもなくアレルヤほど優しい感性を披露してくれるとは思えなかった。
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音楽を聞かせるということについては承諾を得たものの、何を聞かせるかという新たな問題が生じた。勝手なイメージとしてはクラシックだが、そちら方面は著名な作曲家の名前は知っているという程度。曲もヴィジョンで流れるものくらいしか知らないし(刹那に聞かせたのもそのあたりだし)、ヘタに手を出せばボロを出すのはこちらで、逆にご教授いただく破目に合うのが目に見えるようだ。とは言えこちらが勝手に音楽を決めるのもおかしな話であり、これはティエリアのリラクゼーションであることを思い出したロックオンは、結果大まかに知られている音楽を聞かせて好みを見つけさせようという作戦を取る事にした。そりゃまた難儀な方法を選びましたねと半ば呆れ、半ば諦めの入った顔で言うリヒティ(音楽ファイルを探すのを手伝わせた)に同意しつつ、「おためし音楽」と名付けたデータステックにファイルを放り込んでいった。
「おためし音楽」データステックを手にしてためつすがめつしているティエリアに、そんなことしても何も聞こえないぞと苦笑しながら端末に突っ込んで再生を開始する。そしてものの数分で後悔した。これは何ですか、どういう意味ですかという質問が矢継ぎ早に繰り出され、音楽の学者でもないロックオンは四苦八苦することになったのだった。ついにはドレミの起源にまで話題が及びそうになり、とうとう匙を投げたロックオンは唯一自分が知識を披露できるジャンル・・・・・・故郷の歌を再生することにした。
ほろほろと流れる曲と歌に耳を傾けつつ、懐かしさから同じ旋律を口ずさんでいたロックオンは、不思議そうに己を見ているティエリアに気がつく。問いかけると、あなたが好きな音楽のなのですねと至極真面目な顔で言われ、思わず赤面してしまった。幼い頃に主に母親が歌っていて、それを聞きながら覚えた曲だ。歌が好きな彼女の居場所では必ず優しい歌が聞こえた。追憶の中にいる家族を思い、そっと息をついたロックオンは、己を見つめるティエリアに微笑みこの歌の意味を聞かせてやるために口を開く。ただの歌ではない、思いや情景を話して聞かせた。かつて己がそうされたように。
それから、ティエリア・アーデがデータステックをもってロックオン・ストラトスに何らかの問いかけをしている光景がトレミー内でよく見られるようになった。その度にロックオンは笑いながら答えている。今のところ相手は限定されているものの、あのティエリアがミッション以外で積極的にコミュニケーションをとるようになったのである。リヒテンダール・ツェーリは己の采配に満足し、医務長のモレノ医師に報告した。ロックオンはまたしてもハードなミッションをクリアしたとトレミークルーの評価も上がったのだった。
地上任務を終えてトレミーに戻ってきたロックオンは自室に戻ってから肩に背負った鞄のなかから一つ包みを取りだした。店では簡単に包装してくれたのだが、さっさと開封してしまう。彼の広げた掌の中に納まる程度の大きさの箱だが、ちょっとした仕掛けがしてある。彼は地上ミッションのたびに余裕があればクルーにお土産を持ち帰ってきたのだが、とうとう今回ティエリアの番になったのだ。ちなみに刹那には多機能ナイフを、アレルヤにはリクエストもあって写真集を渡した。
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自室にいるものと思っていたのに何と展望室にいたティエリアは、訪ねてきたロックオンを訝しがりながらも締め出しはしなかったが、土産だと渡された箱を小首を傾げつつ眺めた。まず観察を行ってからやっと手を出すのだが、そこまで待てなかったロックオンが蓋の部分を開くと澄んだ音色が流れ出してきたのに驚いて手を離してしまった。放り出したものの無重力状態の艦内では音色を響かせながら漂うばかりである。警戒状態にあっても潜水艦などとは違い無音航行を実施せずともよいことを宇宙の数少ない長所として認識しているロックオンは、オルゴールを買ってきたのだった。無重力空間でオルゴールを聴くのも乙なものだとロックオンは思い、漂うオルゴールを手に取ってティエリアにもう一度渡す。オルゴールの曲目はかつて教え、彼がよく口ずさんでいる歌だった。オルゴールというものを知らなかったティエリアは、音楽を確認したのちにその構造に興味を示して再び観察を始める。音楽ならデータステックがあるとティエリアは言ったが、ロックオンは音楽を知ったこの子供に同じ曲でも演奏する楽器で音は変わるし、演奏する人間や解釈や思いで音は変わること、人の数だけ音楽は違うのだと教えた。じっと己を見ながら話を聞くティエリアに、出来ればこの言葉に隠された真意にも気がついて欲しいと思いながら。
ころころと流れる音を聞きながら、ティエリアはこの曲はある場所を歌っていることを思い出したらしい。その場所の映像はないのかと言い出したので、今度連れて行ってやるから自分で確認してみると良いと口にしたときに曲が止まった。一通りネジが回れば曲は止まってしまうので、ネジの巻き方を見せてから繰り返し聞けるのを確認させる。本体をしまうためにやや厚みを持たせてある箱は、内部に小物を入れることができるスペースがあった。ロックオンが茶化してそこには秘密の宝物を入れておく場所だというと、そんなものはないと返された。機嫌を損ねてはよろしくないので早々に退散することにして暇を告げ、出入り口からそっと伺うと掌のオルゴールを眺めている様子が見えた。気に入ってくれたのだろう。
ティエリアがそのオルゴールをどう扱っていたのかは分からないが、時折ころころと音色が聞こえて来る時があった。ロックオンがティエリアにオルゴール渡したこと、そしてそのオルゴールをティエリアが存外に気に入っていることを知る人物は、時折メンテナンスでネジに油を差してくれるイアン・ヴァスティくらいだったろうが(酒飲み友達のモレノ医師も知っていたかもしれない)、彼はティエリアの小さな秘密を口外しなかったので、巡りめぐってトレミーの怪談として聞かされたロックオンは腹を抱えて笑う破目になった。
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